Bethelgeuse’s blog

最近のneuroscience系科学論文を簡単なコメントつきでアップ

抗うつ薬SSRIによって骨粗鬆症が起こりやすくなるメカニズム

Nature Medicineより。選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) と呼ばれる抗うつ薬には、副作用として骨粗鬆症が知られていますが、なぜそうなるのかがよくわからず、そのため副作用に対処する方法もわかっていませんでした。今回、SSRIによって、脳内セロトニン上昇を介したメカニズムと、セロトニン上昇とは別のメカニズムの、2つのメカニズムよって骨代謝に変化が起こることが報告されました。特に脳内セロトニン上昇は、SSRI本来の薬のメカニズムなので、その結果副作用が起こるのであれば、その対処方法は重要になります。脳内セロトニン上昇した結果、交感神経が活性化し、骨の代謝のうち再吸収が優位になって、骨がもろくなることがわかりました。そこで、交感神経の活性化を抑制するβ遮断薬を同時に投与することによって、骨がもろくなる副作用を抑制することができました。なお、報告で用いられたSSRIフルオキセチンは、化合物が直接的に破骨細胞の分化を抑制し、再吸収を抑制する作用があるようです。しかしながら、長期的には上記交感神経活性化を介した再吸収の方が優位になって、骨粗鬆症が起こりやすくなるようです。

Serotonin-reuptake inhibitors act centrally to cause bone loss in mice by counteracting a local anti-resorptive effect

http://www.nature.com/nm/journal/vaop/ncurrent/full/nm.4166.html

家族性アルツハイマー病 (AD) の原因遺伝子presenilin 1 (PS1) 変異体によって細胞内カルシウム異常が起こる分子メカニズム

Science Signalingより。PS1は家族性ADの原因遺伝子で、AD患者脳に蓄積するアミロイドβ (Aβ) ペプチドを切り出す酵素の構成因子として知られています。今回の報告はよく知られたPS1とAβペプチドではありません。細胞内のカルシウム濃度は厳密に制御されていますが、PS1の変異によってカルシウムの制御機構がどのように破たんするのか、その分子メカニズムが明らかになりました。細胞内の小胞体にはカルシウムが貯蔵されていて、小胞体内のカルシウムが少なくなると、センサータンパク質STIM1 (stromal interaction molecule 1) が感知して、細胞外からカルシウムの流入が起こるように働きかけます (ストア作動性カルシウム流入とよばれます)。今回、PS1を含むγ-secretaseという酵素がSTIM1を切断することが報告されました。PS1に変異が入ることで、このSTIM1切断が増加し、その結果、小胞体内のカルシウム濃度をきちんと検出できず、ストア作動性カルシウム流入が正常に起こらなくなることがわかりました。

Familial Alzheimer’s disease–associated presenilin 1 mutants promote γ-secretase cleavage of STIM1 to impair store-operated Ca2+ entry | Science Signaling

高用量ビオチンMD1003の進行性多発性硬化症臨床第IIb/III相試験結果

Multiple Sclerosis Journalより。MedDay社が進行性多発性硬化症を対象に臨床試験を進めているMD1003 (高用量ビオチン) の臨床第IIb/III相試験結果が論文報告されました。MS-SPIと名付けられた臨床試験では、多発性硬化症に伴う身体障害が改善した患者の割合が主要評価項目として設定されました。プラセボ群51名、MD1003群103名のうち、MD1003服用で13名で身体障害の改善が認められ、プラセボ0名に対して有意な差が認められました。

MD1003 (high-dose biotin) for the treatment of progressive multiple sclerosis: A randomised, double-blind, placebo-controlled study

MedDay社も論文報告について社外発表しています。

MedDay Announces Publication of MD1003 Phase IIb/III Study in the Multiple Sclerosis Journal | Press Releases | Newsroom | MedDay

凝集アミロイドβ (Aβ) 抗体aducanumabによるアルツハイマー病 (AD) 患者脳内のAβ低下

Natureより。Aβ抗体はいくつか臨床試験で失敗していますが、aducanumabはAβの凝集体に結合するといわれてるのが特徴です。現在、Biogen社が臨床第三相試験を行っています。Aducanumabによって、ADマウスモデル、および臨床試験での患者での脳内Aβプラークが低下することが示されました。また、患者でaducanumabの投与によって認知機能の低下が抑制されました。

The antibody aducanumab reduces Aβ plaques in Alzheimer’s disease

http://www.nature.com/nature/journal/v537/n7618/abs/nature19323.html?lang=en

多発性硬化症を対象としたS1P1受容体modulator amiselimodの第2相臨床試験結果

Lancet Neurologyより。現在田辺三菱製薬が開発中のS1P (スフィンゴシン-1-リン酸) 1受容体modulator amiselimod (開発コード名MT-1303) の再発寛解多発性硬化症を対象とした第2相臨床試験結果が論文報告されました。現在、多発性硬化症ではfingolimodがS1P受容体modulatorとして承認されていますが、S1P1受容体以外に対する選択性が乏しく、服薬開始時に心拍数低下などが認められるため、服薬直後から6時間はバイタルサインの確認が必要です。これらの副作用は、S1P3受容体を介していることが知られており、amiselimodはS1P1受容体の選択性を高め、S1P3受容体にはほとんど作用しないようにされています。MOMENTUMと名付けられた臨床試験では、再発寛解多発性硬化症患者415名が参加し、主要達成項目としてMRIスキャンによる脳内炎症が設定されました。その結果、amiselimodの服用によって脳内炎症が減少し、fingolimodや、他の開発中のS1P受容体modulatorとは異なり、服用開始時の心拍数の低下は認められませんでした。

Safety and efficacy of amiselimod in relapsing multiple sclerosis (MOMENTUM): a randomised, double-blind, placebo-controlled phase 2 trial

http://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(16)30192-2/fulltext

 

抗うつ薬SSRI服用初期に不安が惹起されるメカニズム

Natureより。抗うつ薬選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) は、脳内のセロトニン量を増加させることで抗うつ作用を発揮します。しかしながら、服用し始めの初期の副作用として、不安を惹起することが知られていました。脳内のセロトニンが増えることでなぜ不安が惹起されるのか、それに関わる神経回路として、縫線核 (セロトニンの起始核) から、恐怖や不安に関与する領域分界条床核 (BNST) への投射が関与していることが報告されました。SSRIによってセロトニン量が増加すると、縫線核のセロトニンニューロンが活性化し、BNSTのCRF (cortictropin releasing factor) を発現しているニューロンに入力が入り、その結果、不安様行動を惹起していることがマウスで示されました。また、SSRIによる不安用行動は、CRF受容体CRF1R拮抗薬によって消失することも示されています。

Serotonin engages an anxiety and fear-promoting circuit in the extended amygdala

 

http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature19318.html

動物個体全体の透明化uDISCO

Nature Methodsより。組織を透明化する様々な方法が報告されていますが、有機溶媒系の透明化法3DISCOを改良したultimate DISCO (uDISCO) という方法が報告されました。この方法では、有機溶媒による透明化の過程で、組織が元の大きさに対して最大で65%縮小します。この縮小するという性質を利用して、マウスや、より大きなラットの個体全体を透明化し、個体全体を蛍光イメージングした例が示されています。

Shrinkage-mediated imaging of entire organs and organisms using uDISCO

http://www.nature.com/nmeth/journal/vaop/ncurrent/full/nmeth.3964.html

組織の透明化に関しては、約1年前の時点での種々の方法について、下記のTable 1にまとめられています。

ScaleS: an optical clearing palette for biological imaging

http://www.nature.com/neuro/journal/v18/n10/full/nn.4107.html

 

神経幹細胞移植と活性化プロテインC投与の組み合わせによる脳組織修復の促進

Nature Medcineより。活性化プロテインC (activated protein C) は血中のプロテアーゼで、抗凝固作用があります。この活性化プロテインCは皮膚にできた傷の治りを促進する作用があり、例えば糖尿病で足にできた潰瘍の治りをよくすることが報告されています。このような活性化プロテインCの組織修復作用に着目し、神経幹細胞移植と組み合わせて、虚血によって壊死したマウスの脳の修復を促進する試みについて報告されました。活性化プロテインCは、変異体3K3A-APCを用いることで、抗凝固活性を失っていますが、他の生理活性は失わないように工夫されています。そのため、抗凝固作用を持つことによって起こりうる出血のリスクを軽減しています。マウスに虚血を起こして、1週間後から神経幹細胞移植と活性化プロテインC投与によって治療を行った結果、マウスの脳の修復が促進し、虚血によって起こる運動障害も改善しました。

3K3A–activated protein C stimulates postischemic neuronal repair by human neural stem cells in mice

http://www.nature.com/nm/journal/vaop/ncurrent/full/nm.4154.html

家族性ALSの原因遺伝子C9orf72の発現を制御する転写伸長因子Spt4

Scienceより。家族性ALSの原因遺伝子として、最も頻度が多いのがC9orf72という遺伝子の変異です。この遺伝子の変異は、他の神経変性疾患、前頭側頭型認知症 (FTD) の原因でもあります。C9orf72の変異体には、繰り返し配列GGGGCCが挿入され、その結果、繰り返し配列をもったC9orf72 mRNAが凝集体RNA fociを形成し、細胞にストレスを与えます。また、GGGGCCから翻訳されたタンパク質はdipeptide repeat (DPR) と呼ばれるアミノ酸の繰り返し配列を有し、このDPRを含むタンパク質も細胞毒性を持ちます。今回の研究で、転写伸長因子Spt4の機能を抑制すると、これらの毒性を持った繰り返し配列を有するRNAやタンパク質の生成が抑制されることがわかりました。実際に、ヒト SUPT4H1 (Spt4のヒトでの遺伝子名) を抑制すると、家族性ALS患者由来の細胞で、異常RNAやタンパク質が抑制されることがわかりました。

Spt4 selectively regulates the expression of C9orf72 sense and antisense mutant transcripts

http://science.sciencemag.org/content/353/6300/708.long

 

家族性ALSの原因遺伝子の一つUBQLN2の変異体が起こす疾患の分子メカニズム

Cellより。先週はCellとScienceに、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) に関する分子レベルの報告がありました。家族性ALSはたくさんの遺伝子が報告されていますが、その中の一つUbiquilin-2 (UBQLN2) の変異によって、分子レベルでどのような異常が起こるのか、が明らかにされました。UBQLN2はタンパク質の細胞内輸送を行うタンパク質ですが、今回の研究で、シャペロンタンパク質HSP70が、分解すべき異常な凝集タンパク質を認識したとき、凝集タンパク質とHSP70の複合体を、UBQLN2がプロテアソームに連れていく役割を担っていることがわかりました。ALSにおいては、UBQLN2に変異が入った結果、HSP70に対する結合能が失われ、凝集タンパク質とHSP70の複合体をプロテアソームに連れていくことができなくなるようです。そのため、分解されるべき凝集タンパク質が沈着してしまい、ALSが発症するようです。動物レベルにおいても、 変異UBQLN2 (mP520T) をノックインしたマウスでは認知機能障害が認められました。

UBQLN2 Mediates Autophagy-Independent Protein Aggregate Clearance by the Proteasome

http://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(16)30866-2

ALSの原因遺伝子はたくさんありますが、下記の総説に最近の情報も含めて一覧として記載されています。

Amyotrophic lateral sclerosis: recent genetic highlights.

http://journals.lww.com/co-neurology/Abstract/publishahead/Amyotrophic_lateral_sclerosis___recent_genetic.99298.aspx

RNAseqを使った単一ニューロンの投射解析MAPseq

Neuronより。ニューロンが脳内の他の部位に投射しているのを解析する方法は、特定のニューロンに蛍光タンパク質などを発現させる方法が一般的です。今回の報告では、ニューロンに特定のバーコード配列 (人工的な塩基配列) を発現させた後で、脳を細かくスライスにします。その後、それぞれの部位ごとにRNAseqを行い、バーコード配列の有無を解析することで、元々のニューロンがどの部位に投射しているのか、がわかります。バーコード配列は軸索の先にあるプレシナプスで検出されるように工夫しています。例として、ノルアドレナリン作動性ニューロン神経核青斑核にウィルスによってバーコード配列を発現させ、大脳皮質などに青斑核ニューロンが投射している様子が結果として示されました。この方法はMAPseqと名付けられ、バーコードを複数用いることで、複数種類のニューロンの単一細胞レベルの投射を一度に解析できます。筆者によると約1週間で単一ニューロンレベルの投射解析が完了するようです。

High-Throughput Mapping of Single-Neuron Projections by Sequencing of Barcoded RNA

http://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273(16)30421-4

脳での神経新生のPETイメージング

Journal of Neuroscienceより。細胞が分裂するときに取り込まれるチミジンアナログに18F標識した[18F]FLTを使って、ラット脳内の神経新生の様子をPETでイメージングする方法が報告されました。[18F]FLT単独ではイメージングできるほど脳内への集積が認められなかったため、薬物排出トランスポーター阻害薬probenecidを使って、脳からの[18F]FLTの排出を抑制した結果、神経新生が起こっている脳部位でシグナルが検出できました。うつ病の状態になると神経新生が低下し、抗うつ薬によって神経新生が増加すると言われています。そこで実験として、うつ病で増加するストレスホルモン・コルチコステロンをラットに投与すると神経新生が低下し、抗うつ薬fluoxetine (FLX) を投与すると神経新生が増加することがPETイメージングで示されました。

Noninvasive Evaluation of Cellular Proliferative Activity in Brain Neurogenic Regions in Rats under Depression and Treatment by Enhanced [18F]FLT-PET Imaging

http://www.jneurosci.org/content/36/31/8123.short

 

23andMeの遺伝子データを使った大うつ病のゲノムワイド関連解析 (GWAS)

Nature Geneticsより。遺伝子検査などのサービスを実施している23andMeのデータを使って、数万人規模の大うつ病患者のGWAS解析をした結果が報告されました。その結果、OLFM4、TMEM161B–MEF2C、MEIS2–TMCO5A、NEGR1などの15の遺伝座が大うつ病と相関していることが明らかとなりました。

Identification of 15 genetic loci associated with risk of major depression in individuals of European descent

http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/full/ng.3623.html

パーキンソン病治療薬レボドパ (L-DOPA) によるジスキネジアのメカニズム

Journal of Neuroscienceより。パーキンソン病は手の振戦などの不随意運動が現れる神経変性疾患で、薬物治療にレボドパ (L-DOPA) が用いられます。しかしながら、長期間レボドパを服用すると、皮肉なことに副作用として不随意運動が、5年以内に約半数の患者に現れます。そのメカニズムとして、線条体でのDNAのメチル化の変化が起こり、その結果長期的な遺伝子発現の変化が起こることが示されました。

Dynamic DNA Methylation Regulates Levodopa-Induced Dyskinesia

http://www.jneurosci.org/content/36/24/6514

 

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) のリスク遺伝子NEK1

Nature Geneticsより。ALSの原因遺伝子やリスク遺伝子は多数報告されていますが、ALSのリスクとなる遺伝子として、新しくNEK1 (NIMA (never in mitosis gene a)-related expressed kinase 1) が同定されました。NEK1遺伝子の機能不全loss-of-function (LOF) がALSと相関し、ALS全体の3%ほどにあてはまるようです。

NEK1 variants confer susceptibility to amyotrophic lateral sclerosis

http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/full/ng.3626.html