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Bethelgeuse’s blog

最近のneuroscience系科学論文を簡単なコメントつきでアップ

ヒスタミン受容体H3逆作動薬GSK239512の再発寛解型多発性硬化症を対象とした臨床第2相試験

Journal of Neurologyより。ヒスタミン受容体H3のシグナルを抑制する逆作動薬GSK239512は、アルツハイマー病、統合失調症および多発性硬化症で臨床開発されていましたが、現在はグラクソ・スミスクライン社の開発候補品からははずれています。今回、多発性硬化症患者を対象にした臨床第2相試験の結果が論文報告されました。GSK239512の作用としては、多発性硬化症で障害を受ける、脳内再ミエリン形成を促進する効果が期待されています。131名の患者が参加し、臨床試験期間を終えた114名の対象者に対して、ミエリン形成を画像によって評価するmagnetisation transfer ratio (MTR) が主要評価項目として設定されました。最大48週間の試験の結果、再ミエリン化が促進される傾向は見出せましたが、臨床的な指標 (症状の再発、認知機能スコアおよび運動能力のスコア) の改善には至りませんでした。

Lesion remyelinating activity of GSK239512 versus placebo in patients with relapsing-remitting multiple sclerosis: a randomised, single-blind, phase II study | SpringerLink

α-Synuclein抗体PRX002臨床第1相結果の論文化

Movement Disordersより。α-Synucleinはパーキンソン病などの脳内で観察されるレビー小体の主な構成成分です。アルツハイマー病の二大病変はアミロイドβtauで、それぞれに対する抗体が臨床試験されていますが、パーキンソン病でも脳内病変の構成成分α-synucleinに対する抗体が臨床開発されています。アイルランド Prothena 社がスイスRoshe社と共同開発しているα-synuclein抗体PRX002の臨床第1相の結果が論文報告されました。健常者に対してPRX002を単回投与することで、血中にフリーで存在するα-synucleinが最大で約96%低下しました。最近、 Prothena 社はパーキンソン病患者に対してPRX002を投与した臨床第1b相の結果を発表し、脳脊髄液中に血中濃度の0.3%の抗体が移行することを確認しています。以上の結果を受けて、Prothena 社はPRX002を臨床第2相に進める予定にしています。

臨床第1相の論文報告

First-in-human assessment of PRX002, an anti–α-synuclein monoclonal antibody, in healthy volunteers - Schenk - 2016 - Movement Disorders - Wiley Online Library

昨年のProthena 社からの臨床第1相の発表

Prothena Presents Clinical Results Demonstrating Robust, Rapid Reduction in Levels of Free Serum Alpha-Synuclein of Up to 96% After Single Dose of PRX002, Novel Protein Immunotherapy for Parkinson's Disease (NASDAQ:PRTA)

Prothena 社からの臨床第1b相の発表

Prothena Reports Results from Phase 1b Study of PRX002 Demonstrating Robust Antibody CNS Penetration and Significant Reduction of Free Serum Alpha-synuclein in Patients with Parkinson's Disease (NASDAQ:PRTA)

 

アルツハイマー病態に対して保護的に働くTauのリン酸化部位pT205

Scienceより。アルツハイマー病 (AD) 患者の脳内では、神経原線維変化という病理像が認められます。そこには過度にリン酸化されたTauが蓄積していることから、これまでTauのリン酸化の亢進は病態と関係していると考えられてきました。しかしながら、今回、Tauのリン酸化の部位の中には、AD病態に対して抑制的に働く部位が存在することが、ADモデルマウスを使った実験から明らかになりました。その部位T205は、MAPキナーゼの一つp38γによってリン酸化されます。ADモデルマウスAPP23マウスからp38γ遺伝子を欠損させると、認知機能など、病態が悪化しました。逆に、APP23マウスに活性化p38γを過剰発現させると病態が抑制されました。このp38γの作用は、Tauを介し、さらにTauのT205のリン酸化が重要であることも、分子生物学的手法によって示されています。

Site-specific phosphorylation of tau inhibits amyloid-β toxicity in Alzheimer’s mice | Science

Tau凝集阻害薬LMTMのアルツハイマー病 (AD) 患者を対象にした臨床第3相試験

Lancetより。ADの二大病変、アミロイドβおよびTauのうち、Tauを狙った治療法として最も先行していたTau凝集阻害薬LMTM (メチレンブルー誘導体) のmild to moderate AD患者を対象にした臨床試験の結果が論文として発表されました。主要評価項目として、ADAS-Cog (認知機能のスコア) およびADCS-ADL (日常生活動作スコア) が用いられ、891名の患者が、LMTMの服用をしない、もしくはLMTMの2用量を服用しました。臨床試験は15か月に渡って行われましたが、LMTMによるADAS-CogおよびADCS-ADLの改善は認められませんでした。また、二次項目として用いられた脳萎縮 (MRIによる側脳室容量の測定) に対してもLMTMによる作用は認められませんでした。

Efficacy and safety of tau-aggregation inhibitor therapy in patients with mild or moderate Alzheimer's disease: a randomised, controlled, double-blind, parallel-arm, phase 3 trial

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)31275-2/fulltext

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 患者にbrain-computer interfaceを埋め込んだ臨床報告

New England Journal of Medicineより。ALSでは、脊髄の運動ニューロンが障害され、その結果、その神経支配を受けている筋肉が動かせなくなり、例えば手足などを自分で動かすことができなくなります。病気の進行が進むと、手足を動かす以外にも、話すこと、呼吸することもできなくなります。今回、進行したALS患者の脳内にbrain–computer interface (brain-machine interfaceともよばれます) を埋め込むことで、話すことができなくなった患者がコンピューターを介してコミュニケーションできるようになったことが報告されました。Figure 1に描かれているようなシステムで、脳内に埋め込まれた電極が患者の神経活動を読み取り、その信号をコンピューターに伝えることによって、ALS患者が伝えたい内容をコンピューターでタイピングしていくことができるようです。

Fully Implanted Brain–Computer Interface in a Locked-In Patient with ALS

http://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1608085

多発性硬化症患者でのMMP活性のイメージング

Science Translational Medicineより。多発性硬化症の患者では脳血液関門が破綻した部位から、脳実質内に白血球が浸潤し、炎症反応を惹起します。著者らは、多発性硬化症の動物モデルを用いて、破綻した脳血液関門からの白血球の浸潤を検出する上で、matrix metalloproteinase-9 (MMP-9) がよいマーカーとして使用できることを確認しました。その上で、MMP9を含むMMPを阻害する化合物からPETプローブを合成し、多発性硬化症患者でのMMP活性のイメージングを行いました。その結果、ガドリニウムを使ったMRIでのT1強調画像で検出される、多発性硬化症患者の脳内炎症部位が、MMPのPETイメージングのシグナルと一致することがわかりました。

Imaging matrix metalloproteinase activity in multiple sclerosis as a specific marker of leukocyte penetration of the blood-brain barrier | Science Translational Medicine

グリシン再取り込み阻害薬bitopertinの統合失調症患者を対象にした3本の臨床第3相の結果

Lancet Psychiatryより。Bitopertinは、グリシントランスポーターを阻害することで、脳内のグリシンを増加し、統合失調症で低下していると考えられているNMDA受容体の機能を改善することが期待された薬剤でしたが、薬効が十分に得られず、Roche社は既に開発を中止しています。統合失調症患者での3本の臨床第3相の結果が論文として発表されました。主要評価項目は、PANSS Positive Symptom Factor Score (PSFS) で、服用前と12週間の服用後の統合失調症の陽性症状の変化に設定されました。3本の臨床試験のうち、NightLyteと呼ばれた臨床試験において、10 mgを服用した患者のみで主要評価項目が改善されましたが、同じ臨床試験でより高用量の20 mgを服用した患者では作用は認められませんでした。3本の臨床のうち、その中の1用量においてのみ改善は認められましたが、bitopertinの統合失調患者に対する作用は非常に弱いことが示唆されました。

Efficacy and safety of adjunctive bitopertin versus placebo in patients with suboptimally controlled symptoms of schizophrenia treated with antipsychotics: results from three phase 3, randomised, double-blind, parallel-group, placebo-controlled, multicentre studies in the SearchLyte clinical trial programme

http://www.thelancet.com/journals/lanpsy/article/PIIS2215-0366(16)30344-3/abstract

凝集アミロイドβ (Aβ) 抗体aducanumabのカルシウムイメージングによる薬効評価

Journal of Neuroscienceより。8/31付けNatureに、臨床試験データが発表されて注目を集めた、凝集Aβ抗体aducanumabのアルツハイマー病 (AD) モデルTg2576マウス (家族性AD変異が入ったアミロイド前駆タンパク質APPを過剰発現) を使った薬効評価について新しいデータが発表されました。カルシウムイメージングを用いて脳内の神経活動を測定したところ、高齢 (22か月) Tg2576マウスで脳内のプラークを除去しない条件においても、カルシウムシグナルの異常がaducanumabによって回復することがわかりました。著者らは、aducanumabの薬効評価として、脳内Aβプラーク量だけでなく、カルシウムイメージングなどで測定可能な、神経活動を測定することが重要だろうと述べています。

Immunotherapy with aducanumab restores calcium homeostasis in Tg2576 mice | Journal of Neuroscience

8/31付けNatureの臨床データを含む論文

The antibody aducanumab reduces Aβ plaques in Alzheimer’s disease : Nature : Nature Research

家族性ALSおよびFTDの原因遺伝子C9ORF72のシグナル伝達分子メカニズム

Nature Neuroscienceより。C9ORF72のイントロンに6塩基の繰り返し配列GGGGCCが挿入される変異が、家族性筋萎縮性側索硬化症 (ALS) および前頭側頭型認知症 (FTD) の最も多い原因です。しかしながら、C9ORF72の分子メカニズムに関してはよくわかっていません。今回、C9ORF72の結合因子を探索した結果、細胞内の骨格制御に重要なcofilinを含むアクチン結合タンパク質が同定されました。また、C9ORF72遺伝子を欠損した細胞や、C9ORF72変異の患者由来の細胞では、cofilinのリン酸化が上昇していることがわかり、疾患においては、C9ORF72の機能が失われることで、cofilinのリン酸化が上昇し、アクチン細胞骨格制御が異常になることが示唆されました。C9ORF72からcofilinのリン酸化に至る過程ついても、C9ORF72→低分子量Gタンパク質Arf6→LIMK1/2→cofilinの流れでシグナル伝達が行われることも明らかとなりました。

C9ORF72 interaction with cofilin modulates actin dynamics in motor neurons

http://www.nature.com/neuro/journal/vaop/ncurrent/full/nn.4407.html

家族性パーキンソン病の発症年齢に影響を与える遺伝子DNM3

Lancet Neurologyより。Leucine-rich repeat kinase 2 (LRRK2) というキナーゼの変異6055G→A (Gly2019Ser) によって家族性のパーキンソン病が発症します。一方で、家族性であるにも関わらず、LRRK2変異を有する患者でも発症の年齢に幅があることが知られています。このLRRK2変異による家族性パーキンソン病の発症に影響を与える遺伝子座を同定するため、全ゲノム連鎖解析が行われ、染色体1q23.3と1q24.3の間にある遺伝子座としてDNM3遺伝子内のrs2421947が同定されました。DNM3はdynamin 3をコードしています。この部位がGGの保因者は、CCの保因者に比較して12.5年パーキンソン病の発症が早くなることがわかりました。

DNM3 and genetic modifiers of age of onset in LRRK2 Gly2019Ser parkinsonism: a genome-wide linkage and association study

http://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(16)30203-4/abstract

頭蓋内の容積と相関する遺伝子座の同定

Nature Neuroscienceより。脳が収まっている頭蓋内の容積は成長とともに大きくなりますが、一旦成長しきると、年をとって脳が萎縮しても、その容積が変わることはありません。ゲノムワイド関連解析 (GWAS) によって、頭蓋内容積に相関する遺伝子座が同定されました。見つかった遺伝子座にある遺伝子がどのようなシグナル伝達に関わっているかを解析した結果、細胞周期やPI3K-AKTを含む成長因子シグナルに関わっていました。また、頭蓋内容積との相関で見つかった遺伝子座が、他にどのような表現型と相関しているかを解析した結果、認知機能やパーキンソン病と相関していることがわかりました。

Novel genetic loci underlying human intracranial volume identified through genome-wide association

http://www.nature.com/neuro/journal/vaop/ncurrent/full/nn.4398.html

パーキンソン病患者脳内に蓄積するα-synucleinフィブリルと結合する膜タンパク質LAG3

Scienceより。パーキンソン病患者の脳内にはレビー小体という病理像が認められ、そこにはα-synucleinが蓄積しています。α-synucleinは家族性パーキンソン病の原因遺伝子としても知られ、パーキンソン病の病態と深く関わっています。α-synucleinは多量体を形成し、線維状のフィブリルとなり、毒性を発揮するといわれ、またそれらが細胞から細胞に伝播し、脳内に病態が広がっていきます。このα-synucleinフィブリルと結合する膜タンパク質を探索した結果、lymphocyte-activation gene 3 (LAG3) というタンパク質が同定されました。実際に、LAG3欠損マウスやLAG3抗体によってα-synucleinの伝播や細胞毒性が軽減しました。

Pathological α-synuclein transmission initiated by binding lymphocyte-activation gene 3 | Science

多発性硬化症治療薬フマル酸ジメチルおよびlaquinimodの作用メカニズムに関する知見

最近多発性硬化症の治療薬のメカニズムに関する報告が2つありました。多発性硬化症の治療薬には免疫系の細胞に作用するものが多いですが、実は詳細な分子メカニズムが明らかでないものもあります。

一つ目は、フマル酸ジメチル (DMF) で、DMFは再発寛解多発性硬化症で、経口薬として使用されています。Science Signalingの報告では、DMFがPKCθキナーゼとCD28の相互作用を阻害し、T細胞の活性化を抑制するというメカニズムが明らかになりました。

Chemical proteomic map of dimethyl fumarate–sensitive cysteines in primary human T cells | Science Signaling

二つ目は、laquinimodでテバ製薬が多発性硬化症ハンチントン病を対象に臨床開発しています。PNASでテバ製薬の研究者から報告があり、転写因子aryl hydrocarbon receptor (AhR) の活性化を介して、laquinimodが多発性硬化症のマウスモデルで薬効を発揮していることが示されました。

Laquinimod arrests experimental autoimmune encephalomyelitis by activating the aryl hydrocarbon receptor

脊髄性筋萎縮症 (SMA) の治療を目指したオリゴヌクレオチドの改善

Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS) より。SMAはSMN1という遺伝子に変異が起こり、SMNタンパク質が機能しなくなることによって、筋委縮に伴う運動失調が起こる中枢性の疾患です。この機能しないSMN1の代わりに、SMN2という遺伝子のスプライシングを変化させることによって、SMNタンパク質を増やす試みが臨床試験でなされています。そのスプライシングを変化させるために、オリゴヌクレオチドが用いられるのですが、オリゴヌクレオチドを末梢投与によって脳に移行させるのは容易ではありません。今回の報告は、SMN2遺伝子にスプライシング変化を起こすオリゴヌクレオチドに、組織移行性を上げるようなペプチド修飾を加えて、末梢投与 (静脈内投与) によって脳にオリゴヌクレオチドを移行させることに成功しています。SMAモデルマウスに修飾オリゴヌクレオチドPip6a-PMOを投与することで、目的としたSMN2からのタンパク質発現が増加し、病態マウスの生存延長などの作用が認められました。

Systemic peptide-mediated oligonucleotide therapy improves long-term survival in spinal muscular atrophy

 

Esketamineの治療抵抗性うつ病患者を対象とした臨床第2相試験

Biological Psychiatryより。抗うつ薬で改善しないうつ病は、治療抵抗性うつ病とよばれます。この治療抵抗性うつ病に対して、麻酔薬として用いられるケタミンが有効であるという臨床証拠があります。ケタミンはラセミ体で、S-(+)-ketamine (esketamine) とR-(-)-ketamine (arketamine) からなり、esketamineはarketamineに比べて、ターゲットのグルタミン酸受容体NMDARに対して3-4倍の親和性を有します。現在、esketamineは Janssen社が治療抵抗性うつ病を対象に、臨床第3相で開発していますが、その前段階の臨床第2相試験の結果が論文報告されました。29名の患者に対して、プラセボとesketamineの2用量 (0.20, 0.40 mg/kg i.v.) が投与され、主要評価項目には、投与前と投与24時間後のうつ病評価尺度MADRSの変化が用いられました。その結果、esketamineの投与によって、MADRSの有意な改善が認められ、作用発現に関しても、投与40分後から急速な抗うつ作用が認められました。

Intravenous Esketamine in Adult Treatment-Resistant Depression: A Double-Blind, Double-Randomization, Placebo-Controlled Study

http://www.biologicalpsychiatryjournal.com/article/S0006-3223(15)00914-2/abstract