Bethelgeuse’s blog

最近のneuroscience系科学論文を簡単なコメントつきでアップ

多発性硬化症のリスクとなる新しい遺伝子座の同定

Science Advancesより。ドイツにおいて、4,888名の多発性硬化症患者と、10,395名の対照健常人のgenome-wide association study (GWAS) の結果、新規の遺伝子座としてL3MBTL3, MAZ, ERG, SHMT1が同定されました。L3MBTL3, MAZ, ERGは免疫細胞の機能制御に関わっています。SHMT1はserine hydroxymethyltransferaseという酵素をコードし、この酵素はメチル化の代謝反応の一部に関与していることから、DNAのメチル化のようなエピジェネティックな反応が多発性硬化症のリスクに関わっていることが示唆されました。

Novel multiple sclerosis susceptibility loci implicated in epigenetic regulation

http://advances.sciencemag.org/content/2/6/e1501678

マウスの大脳皮質-線条体神経投射の詳細な解析

Nature Neuroscienceより。大脳皮質-線条体神経投射は、体性感覚、認知機能や感情に重要な役割を果たしている神経回路で、ハンチントン病などでその神経投射が脱落することが知られています。マウスでの研究で、大脳皮質-線条体神経投射の詳細なマップが明らかになり、ハンチントン病のモデルマウスや自閉症のモデルマウスで大脳皮質-線条体神経投射の特定の投射が脱落することが明らかになりました。

The mouse cortico-striatal projectome

http://www.nature.com/neuro/journal/vaop/ncurrent/full/nn.4332.html

文献は以下のリンクからも閲覧可能です。

http://www.mouseconnectome.org/2016/06/new-publication-in-nature-neuroscience-httprdcu-beiwga/

小脳性運動失調症の新しい原因遺伝子CAPN1

Cell Reportsより。小脳性運動失調症にはたくさんの原因遺伝子が同定されていますが、現在英国に住むバングラデシュ系の家系から、CAPN1の変異によって小脳性運動失調症が起こることが報告されました。CAPN1はカルシウム依存的なプロテアーゼcalpain-1をコードします。Calpain-1欠損マウスにおいても、ヒトと同様に小脳性運動失調症様の症状が引き起こされることが示されました。

Defects in the CAPN1 Gene Result in Alterations in Cerebellar Development and Cerebellar Ataxia in Mice and Humans

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211124716306271

パーキンソン病患者由来のドーパミン神経細胞での網羅的遺伝子発現解析

Cell Reportsより。家族性および孤発性のパーキンソン病の患者からiPS細胞を作製し、パーキンソン病で神経変性することが知られる、中脳ドーパミン細胞にiPS細胞を分化させ、パーキンソン病の病態細胞モデルを複数作製しました。病態細胞としての表現型としては、酸化ストレスに対する脆弱性や異常な神経活動が観察されました。さらに、各細胞をRNAシーケンス (RNA-Seq) によって網羅的に遺伝子発現解析した結果、パーキンソン病の細胞では、神経発達障害に関係するRBFOX1という遺伝子の増加によって、RNAスプライシングに変化が生じ、パーキンソン病の病態に関係した遺伝子変化を引き起こしていることが示唆されました。

Molecular Features Underlying Neurodegeneration Identified through In Vitro Modeling of Genetically Diverse Parkinson’s Disease Patients

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211124716305903

妊娠中の腸内環境の変化と生まれてくる子供の神経発達障害

Cellより。妊娠中の肥満によって、生まれてくる子供に自閉症などの神経発達障害が起こるリスクが増加します。マウスの実験で、母親マウスに食事性の肥満を起こすと、生まれてくる子供に社会性行動異常が認められ、さらに脳内の神経伝達が低下していました。食事性肥満を起こした母親マウスにラクトバチルス・ロイテリ菌 (Lactobacillus reuteri) を与えることで、生まれてくる子供の行動異常はなくなることがわかりました。神経発達障害と母親の腸内環境が密接に関係していることが示唆されます。

Microbial Reconstitution Reverses Maternal Diet-Induced Social and Synaptic Deficits in Offspring

http://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(16)30730-9

ストレスでてんかん発作が起こりやすくなる分子メカニズム

Science Signalingより。てんかんの患者では不安やストレスによっててんかん発作が起こる頻度が増加します。その分子メカニズムとして、ストレスホルモンcorticotropin-releasing factor (CRF) が流すシグナルが変化することが報告されました。つまり、てんかん発作が起こった後では、同じ受容体を介しているにも関わらず、下流のシグナル伝達に変化が生じます。大脳皮質のpiriform cortex (てんかん発作の発生源となりやすい部位) では、通常CRFはその受容体CRHRに結合し、Gαq/11を介して下流にシグナル伝達するのに対し、てんかん発作が起こるとGαsを介して下流にシグナル伝達します。そのシグナル変化はRGS2というタンパク質の低下が関係していることが判明しました。

A switch in G protein coupling for type 1 corticotropin-releasing factor receptors promotes excitability in epileptic brains

http://stke.sciencemag.org/content/9/432/ra60

若い世代 (children and adolescents) での抗うつ薬の作用比較

The Lancetより。若い世代 (children and adolescents) のうつ病に対する14種類の抗うつ薬 (amitriptyline, citalopram, clomipramine, desipramine, duloxetine, escitalopram, fluoxetine, imipramine, mirtazapine, nefazodone, nortriptyline, paroxetine, sertraline, venlafaxine) の効果と忍容性についてメタ解析 (34臨床試験、合計5260名) した結果が報告されました。抗うつ作用の効果に関しては、fluoxetineのみしかプラセボに対して統計的有意差を示しませんでした。著者らは以下のように解釈を書いています。

When considering the risk–benefit profile of antidepressants in the acute treatment of major depressive disorder, these drugs do not seem to offer a clear advantage for children and adolescents. Fluoxetine is probably the best option to consider when a pharmacological treatment is indicated.

[文献]

Comparative efficacy and tolerability of antidepressants for major depressive disorder in children and adolescents: a network meta-analysis

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)30385-3/abstract

 

脳のオリゴデンドロサイトの細胞系譜は12種類

Scienceより。単一細胞のRNA-seqの結果、マウスでは脳のオリゴデンドロサイトの細胞系譜は12種類に分かれているようです。オリゴデンドロサイト前駆細胞から成熟オリゴデンドロサイトまで、今まではデータベースなどでも3種類くらいでしたが、思った以上にオリゴデンドロサイトは多様な細胞にわかれるようです。

Oligodendrocyte heterogeneity in the mouse juvenile and adult central nervous system

http://science.sciencemag.org/content/352/6291/1326

多発性硬化症の造血幹細胞移植療法の臨床試験

The Lancetより。24名の多発性硬化症の患者さんに対して、カナダの3つの病院が行った臨床試験の成績です。多発性硬化症は、免疫細胞が自分自身のミエリンに対して免疫反応を起こしてしまうことにより発症する、自己免疫疾患的側面があります。そこで著者らは、免疫細胞を一旦除去しておいて、その後で造血幹細胞を自家移植することで多発性硬化症を治療しうることを示しました。臨床試験の主要評価項目 (primary outcome) は、multiple sclerosis activity-free survivalで、臨床学的な多発性硬化症の症状の再発、MRIの画像診断による脳内病巣の有無、身体障害のスコア (EDSS, Expanded Disability Status Scaleの略) です。その結果、70%の患者において、多発性硬化症の進行が止まったようです。著者も論文内で記載していますが、患者数が少ないこと、比較対象となる患者さんが臨床試験内ではいなかったことから、報告された治療法が本当に有効かどうかは注意が必要だそうです。

Immunoablation and autologous haemopoietic stem-cell transplantation for aggressive multiple sclerosis: a multicentre single-group phase 2 trial

 

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)30169-6/abstract

α-Synucleinがミトコンドリア機能を阻害する分子メカニズム

Science Translational Medicineより。α-Synucleinはパーキンソン病などの脳内に蓄積することが知られていますが、α-synucleinがTOM20に結合し、ミトコンドリアの機能不全を起こしていることが報告されました。TOM20はミトコンドリアの機能に必要なタンパク質を、ミトコンドリア内部に取り込む機能があり、その機能が阻害されることで、ミトコンドリアに本来必要なタンパク質を取り込むことができなくなるようです。

α-Synuclein binds to TOM20 and inhibits mitochondrial protein import in Parkinson’s disease

http://stm.sciencemag.org/content/8/342/342ra78

 

Neurofilament Light Chainが神経変性疾患の進行に伴うバイオマーカーとなる可能性

Neuronより。アルツハイマー病などの神経疾患では、脳に異常沈着し、病気の進行にしたがって脳が委縮します。MRIといった画像で脳の萎縮を観察する方法以外には、脳がダメージを受けていることを判定する体液性のバイオマーカーはありませんでした。今回の研究で、神経変性疾患のマウスモデルや患者さんにおいて、脳脊髄液および血液中のneurofilament light chain (NfL) を測定することで、脳がダメージを受けていることを判定できる可能性が出てきました。

Neurofilament Light Chain in Blood and CSF as Marker of Disease Progression in Mouse Models and in Neurodegenerative Diseases

http://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273(16)30197-0

腸内環境の変化がメタボを起こすメカニズム

Natureより。腸内環境の変化がメタボリック症候群と関係していることは知られていましたが、そのメカニズムはよくわかっていませんでした。腸内細菌の変化によって、酢酸の産生量が増加し、酢酸によって副交感神経が刺激されます。その結果、インスリンやグレリンの分泌、過食などが誘発され、メタボリック症候群になるようです。

Acetate mediates a microbiome–brain–β-cell axis to promote metabolic syndrome

http://www.nature.com/nature/journal/v534/n7606/abs/nature18309.html

抑制性のシナプスを除く分子生物学的手法の開発

Nature Methodsより。GFE3というツールを使って抑制性のシナプスの機能を壊す方法です。GFE3は、E3リガーゼと、gephyrin (抑制性ポストシナプスに発現) に結合する抗体様タンパクFingRの融合タンパク質です。GFE3を神経細胞に発現させることで、gephyrinがユビキチン化を介して分解され、抑制性ポストシナプスの機能が失われ、その結果、抑制性の神経活動が入らなくなります。

光遺伝学 (optogenetics) など、神経活動を人工的に操作する方法はいろいろありますが、タンパク質分解を介して神経活動を操作するという新しいタイプの技術報告です。

An E3-ligase-based method for ablating inhibitory synapses

http://www.nature.com/nmeth/journal/vaop/ncurrent/full/nmeth.3894.html

家族性Parkinson病の原因遺伝子としてTMEM230が同定

Nature Geneticsより。家族性のParkinson病 (PD) の原因となる遺伝子変異はたくさん同定されていますが、新たにTMEM230という遺伝子の変異がPDの原因となることが報告されました。TMEM230は膜貫通タンパク質で、シナプス小胞の輸送に関わっているようです。

Identification of TMEM230 mutations in familial Parkinson's disease

http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/full/ng.3589.html

RNAを標的とするCRISPRシステム

Scienceより。最近ゲノム編集で多用されているCRISPR-Casシステムは、通常DNAを切断しますが、CRISPR-Cas effectorのC2c2はRNAをガイドとして、RNAを切断するようです。CRISPR-Casシステムが飛躍的に発展を遂げています。

C2c2 is a single-component programmable RNA-guided RNA-targeting CRISPR effector

http://science.sciencemag.org/content/early/2016/06/01/science.aaf5573