Bethelgeuse’s blog

最近のneuroscience系科学論文を簡単なコメントつきでアップ

2016-01-01から1年間の記事一覧

抗CD20抗体ocrelizumabの多発性硬化症を対象とした臨床第3相試験の論文発表

New England Journal of Medicineより。多発性硬化症の臨床試験としては画期的といえる抗CD20抗体ocrelizumabの結果が論文発表されました。多発性硬化症は再発寛解型と進行型に分けられ、進行型は一次進行型と二次進行型にさらに分けられます。この一次進行…

TauワクチンAADvac1のアルツハイマー病 (AD) 患者を対象にした臨床第1相試験結果

Lancet Neurologyより。ADにおいては、AβおよびTauの二大病変のうち、Aβを標的とする治療法が先行していますが、11月下旬にEli Lilly社が開発しているAβ抗体solanezumabが臨床第3相試験で薬効が見出せなかったと発表、など、これまでAβ療法は成功していませ…

ミトコンドリアピルビン酸運搬体 (MPC) を標的とする化合物MSDC-0160のパーキンソン病 (PD) モデルでの薬効

Science Translational Medicineより。MSDC-0160は、元々は2型糖尿病治療薬として開発されていた化合物です。そのメカニズムは、細胞内の解糖系によって生成されたピルビン酸をミトコンドリア内に取り込む際に必要なMPCの機能を調節することで、細胞内のエネ…

ホスホジエステラーゼ10A (PDE10A) 阻害薬PF-02545920のハンチントン病 (HD) モデルマウスでの薬効

Neuronより。PDE10A阻害薬により、細胞内のcGMPおよびcAMPの濃度が上昇し、細胞内のシグナル伝達が変化します。現在、Pfizer社が、HDを対象に臨床第2相で開発中のPDE10A阻害薬PF-02545920のHDモデルマウスを用いた詳細な薬効評価が発表されました。HDでは、…

RNAスプライシングと線虫の寿命

Natureより。RNAスプライシングが、加齢と密接に関わっていることが線虫 (C. elegans) を用いた実験で報告されました。RNAスプライシングによって、mRNA前駆体からイントロンが除かれたり、エクソンの異なったアイソフォームが発現したりします。摂餌制限は…

分岐鎖アミノ酸 (BCAA) トランスポーターSLC7A5と自閉症

Cellより。アミノ酸バリン、ロイシン、イソロイシンはBCAAとよばれ、体内で合成できないことから、食事によって摂取します。Solute carrier transporter 7a5 (SLC7A5) は脳-血液関門に発現し、BCAAを脳に取り込むのに重要なトランスポーターです。マウスの血…

ヒスタミン受容体H3逆作動薬GSK239512の再発寛解型多発性硬化症を対象とした臨床第2相試験

Journal of Neurologyより。ヒスタミン受容体H3のシグナルを抑制する逆作動薬GSK239512は、アルツハイマー病、統合失調症および多発性硬化症で臨床開発されていましたが、現在はグラクソ・スミスクライン社の開発候補品からははずれています。今回、多発性硬…

α-Synuclein抗体PRX002臨床第1相結果の論文化

Movement Disordersより。α-Synucleinはパーキンソン病などの脳内で観察されるレビー小体の主な構成成分です。アルツハイマー病の二大病変はアミロイドβとtauで、それぞれに対する抗体が臨床試験されていますが、パーキンソン病でも脳内病変の構成成分α-synu…

アルツハイマー病態に対して保護的に働くTauのリン酸化部位pT205

Scienceより。アルツハイマー病 (AD) 患者の脳内では、神経原線維変化という病理像が認められます。そこには過度にリン酸化されたTauが蓄積していることから、これまでTauのリン酸化の亢進は病態と関係していると考えられてきました。しかしながら、今回、Ta…

Tau凝集阻害薬LMTMのアルツハイマー病 (AD) 患者を対象にした臨床第3相試験

Lancetより。ADの二大病変、アミロイドβおよびTauのうち、Tauを狙った治療法として最も先行していたTau凝集阻害薬LMTM (メチレンブルー誘導体) のmild to moderate AD患者を対象にした臨床試験の結果が論文として発表されました。主要評価項目として、ADAS-C…

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 患者にbrain-computer interfaceを埋め込んだ臨床報告

New England Journal of Medicineより。ALSでは、脊髄の運動ニューロンが障害され、その結果、その神経支配を受けている筋肉が動かせなくなり、例えば手足などを自分で動かすことができなくなります。病気の進行が進むと、手足を動かす以外にも、話すこと、…

多発性硬化症患者でのMMP活性のイメージング

Science Translational Medicineより。多発性硬化症の患者では脳血液関門が破綻した部位から、脳実質内に白血球が浸潤し、炎症反応を惹起します。著者らは、多発性硬化症の動物モデルを用いて、破綻した脳血液関門からの白血球の浸潤を検出する上で、matrix …

グリシン再取り込み阻害薬bitopertinの統合失調症患者を対象にした3本の臨床第3相の結果

Lancet Psychiatryより。Bitopertinは、グリシントランスポーターを阻害することで、脳内のグリシンを増加し、統合失調症で低下していると考えられているNMDA受容体の機能を改善することが期待された薬剤でしたが、薬効が十分に得られず、Roche社は既に開発…

凝集アミロイドβ (Aβ) 抗体aducanumabのカルシウムイメージングによる薬効評価

Journal of Neuroscienceより。8/31付けNatureに、臨床試験データが発表されて注目を集めた、凝集Aβ抗体aducanumabのアルツハイマー病 (AD) モデルTg2576マウス (家族性AD変異が入ったアミロイド前駆タンパク質APPを過剰発現) を使った薬効評価について新し…

家族性ALSおよびFTDの原因遺伝子C9ORF72のシグナル伝達分子メカニズム

Nature Neuroscienceより。C9ORF72のイントロンに6塩基の繰り返し配列GGGGCCが挿入される変異が、家族性筋萎縮性側索硬化症 (ALS) および前頭側頭型認知症 (FTD) の最も多い原因です。しかしながら、C9ORF72の分子メカニズムに関してはよくわかっていません…

家族性パーキンソン病の発症年齢に影響を与える遺伝子DNM3

Lancet Neurologyより。Leucine-rich repeat kinase 2 (LRRK2) というキナーゼの変異6055G→A (Gly2019Ser) によって家族性のパーキンソン病が発症します。一方で、家族性であるにも関わらず、LRRK2変異を有する患者でも発症の年齢に幅があることが知られてい…

頭蓋内の容積と相関する遺伝子座の同定

Nature Neuroscienceより。脳が収まっている頭蓋内の容積は成長とともに大きくなりますが、一旦成長しきると、年をとって脳が萎縮しても、その容積が変わることはありません。ゲノムワイド関連解析 (GWAS) によって、頭蓋内容積に相関する遺伝子座が同定され…

パーキンソン病患者脳内に蓄積するα-synucleinフィブリルと結合する膜タンパク質LAG3

Scienceより。パーキンソン病患者の脳内にはレビー小体という病理像が認められ、そこにはα-synucleinが蓄積しています。α-synucleinは家族性パーキンソン病の原因遺伝子としても知られ、パーキンソン病の病態と深く関わっています。α-synucleinは多量体を形…

多発性硬化症治療薬フマル酸ジメチルおよびlaquinimodの作用メカニズムに関する知見

最近多発性硬化症の治療薬のメカニズムに関する報告が2つありました。多発性硬化症の治療薬には免疫系の細胞に作用するものが多いですが、実は詳細な分子メカニズムが明らかでないものもあります。 一つ目は、フマル酸ジメチル (DMF) で、DMFは再発寛解型多…

脊髄性筋萎縮症 (SMA) の治療を目指したオリゴヌクレオチドの改善

Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS) より。SMAはSMN1という遺伝子に変異が起こり、SMNタンパク質が機能しなくなることによって、筋委縮に伴う運動失調が起こる中枢性の疾患です。この機能しないSMN1の…

Esketamineの治療抵抗性うつ病患者を対象とした臨床第2相試験

Biological Psychiatryより。抗うつ薬で改善しないうつ病は、治療抵抗性うつ病とよばれます。この治療抵抗性うつ病に対して、麻酔薬として用いられるケタミンが有効であるという臨床証拠があります。ケタミンはラセミ体で、S-(+)-ketamine (esketamine) とR-…

抗うつ薬SSRIによって骨粗鬆症が起こりやすくなるメカニズム

Nature Medicineより。選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) と呼ばれる抗うつ薬には、副作用として骨粗鬆症が知られていますが、なぜそうなるのかがよくわからず、そのため副作用に対処する方法もわかっていませんでした。今回、SSRIによって、脳内セロ…

家族性アルツハイマー病 (AD) の原因遺伝子presenilin 1 (PS1) 変異体によって細胞内カルシウム異常が起こる分子メカニズム

Science Signalingより。PS1は家族性ADの原因遺伝子で、AD患者脳に蓄積するアミロイドβ (Aβ) ペプチドを切り出す酵素の構成因子として知られています。今回の報告はよく知られたPS1とAβペプチドではありません。細胞内のカルシウム濃度は厳密に制御されてい…

高用量ビオチンMD1003の進行性多発性硬化症臨床第IIb/III相試験結果

Multiple Sclerosis Journalより。MedDay社が進行性多発性硬化症を対象に臨床試験を進めているMD1003 (高用量ビオチン) の臨床第IIb/III相試験結果が論文報告されました。MS-SPIと名付けられた臨床試験では、多発性硬化症に伴う身体障害が改善した患者の割合…

凝集アミロイドβ (Aβ) 抗体aducanumabによるアルツハイマー病 (AD) 患者脳内のAβ低下

Natureより。Aβ抗体はいくつか臨床試験で失敗していますが、aducanumabはAβの凝集体に結合するといわれてるのが特徴です。現在、Biogen社が臨床第三相試験を行っています。Aducanumabによって、ADマウスモデル、および臨床試験での患者での脳内Aβプラークが…

多発性硬化症を対象としたS1P1受容体modulator amiselimodの第2相臨床試験結果

Lancet Neurologyより。現在田辺三菱製薬が開発中のS1P (スフィンゴシン-1-リン酸) 1受容体modulator amiselimod (開発コード名MT-1303) の再発寛解型多発性硬化症を対象とした第2相臨床試験結果が論文報告されました。現在、多発性硬化症ではfingolimodがS1…

抗うつ薬SSRI服用初期に不安が惹起されるメカニズム

Natureより。抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) は、脳内のセロトニン量を増加させることで抗うつ作用を発揮します。しかしながら、服用し始めの初期の副作用として、不安を惹起することが知られていました。脳内のセロトニンが増えること…

動物個体全体の透明化uDISCO

Nature Methodsより。組織を透明化する様々な方法が報告されていますが、有機溶媒系の透明化法3DISCOを改良したultimate DISCO (uDISCO) という方法が報告されました。この方法では、有機溶媒による透明化の過程で、組織が元の大きさに対して最大で65%縮小し…

神経幹細胞移植と活性化プロテインC投与の組み合わせによる脳組織修復の促進

Nature Medcineより。活性化プロテインC (activated protein C) は血中のプロテアーゼで、抗凝固作用があります。この活性化プロテインCは皮膚にできた傷の治りを促進する作用があり、例えば糖尿病で足にできた潰瘍の治りをよくすることが報告されています。…

家族性ALSの原因遺伝子C9orf72の発現を制御する転写伸長因子Spt4

Scienceより。家族性ALSの原因遺伝子として、最も頻度が多いのがC9orf72という遺伝子の変異です。この遺伝子の変異は、他の神経変性疾患、前頭側頭型認知症 (FTD) の原因でもあります。C9orf72の変異体には、繰り返し配列GGGGCCが挿入され、その結果、繰り返…