Bethelgeuse’s blog

最近のneuroscience系科学論文を簡単なコメントつきでアップ

シナプスのPETイメージングプローブ

Science Translational Medicineより。シナプス小胞に存在するsynaptic vesicle glycoprotein 2A (SV2A) に結合するPETプローブ [11C]UCB-Jによってヒトでシナプスの量を測定することができるようになりました。実際にヒトてんかん患者でのシナプス減少を [11C]UCB-Jによって測定できたようです。神経変性疾患精神疾患でのシナプス減少も同様に評価できるのか、結果が期待されます。

Imaging synaptic density in the living human brain

http://stm.sciencemag.org/content/8/348/348ra96

自閉症スペクトラムの末梢神経障害が引き起こす行動レベルでの異常

Cellより。自閉症スペクトラム患者の約60%が触覚を含む体性感覚の異常があります。また、自閉症スペクトラムのマウスモデルと言われるMecp2, Gabrb3, Shank3およびFmr1遺伝子変異マウスでも同様に触覚異常が認められます。マウスにおいて、触覚になどに関わる末梢の体性感覚ニューロン特異的にMecp2やGabrb3を欠損させたところ、 発生段階から各遺伝子を欠損させることで、マウスの社会性行動異常や不安様行動が現れました。さらに、全身性にMecp2を欠損したマウス (自閉症スペクトラムの中でもレット症候群の動物モデルと言われます) に対して、体性感覚ニューロンのみでMecp2の発現を回復させたところ、Mecp2欠損マウスの社会性行動異常や不安様行動が改善しました。しかしながら、他の異常、例えば致死率、記憶障害、運動障害は改善しませんでした。通常、社会性行動異常や不安様行動は中枢神経の異常と考えられますが、自閉症スペクトラムにおいては、末梢神経の異常が社会性行動異常や不安様行動に関係している可能性があります。

Peripheral Mechanosensory Neuron Dysfunction Underlies Tactile and Behavioral Deficits in Mouse Models of ASDs

http://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(16)30584-0

脳で遺伝子発現をオフにする仕組み

Scienceより。何らかの神経活動によって遺伝子発現がオンになった後、それらの遺伝子群の発現をオフにする仕組みが明らかになりました。マウスの実験で、nucleosome remodeling and deacetylase (NuRD) 複合体によって、クロマチンのリモデリング、この場合はクロマチンの構成因子の交換が行われ、神経活動によってオンになった遺伝子群がオフになります。動物レベルでの影響を調べるため、NuRD複合体の構成分子Chd4遺伝子欠損マウスで、遺伝子がオフにならない状態にすると、細胞レベルではニューロンシナプスの刈り込みによる神経回路のチューニングが行われなくなり、個体レベルでは体性感覚刺激に対する反応性が過剰になってしまうことがわかりました。遺伝子のオン・オフどちらにもエピジェネティックな分子制御が働いているようです。

Chromatin remodeling inactivates activity genes and regulates neural coding

 

http://science.sciencemag.org/content/353/6296/300

霊長類アカゲザルの脳の発生段階における詳細な遺伝子発現解析

Natureより。脳の発生段階における詳細な遺伝子発現変化は、特にヒトを含む霊長類では明らかではありませんでした。今回アカゲザルの脳を、胎生40日から生後48か月に渡って、脳の部位別 (前頭葉線条体扁桃体、海馬、大脳皮質視覚野) に網羅的遺伝子発現解析した結果が報告されました。小頭症、自閉症統合失調症などの疾患と関連する遺伝子群は、脳の発生段階において、ある特定の時期、特定の部位で変動していることが示されました。

A comprehensive transcriptional map of primate brain development

http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature18637.html

 

家族性パーキンソン病の発症を早める遺伝子座の同定

Human Molecular Geneticsより。NeuroGenetics Research Consortium (NGRC) に登録された家族性パーキンソン病431名、孤発性パーキンソン病1,544名のデータを使って、ゲノムワイド関連解析 (GWAS) を行った結果、LHFPL2とTPM1の遺伝子座が、家族性パーキンソン病の早期発症と相関することがわかりました。この結果は、別の家族性パーキンソン病737名、孤発性パーキンソン病2,363名のデータでも再現されました。LHFPL2とTPM1の遺伝子座とパーキンソン病の早期発症に関しては、家族性の患者においてのみ認められ、孤発性の患者においては認められませんでした。

Identification of genetic modifiers of age-at-onset for familial Parkinson’s disease

http://hmg.oxfordjournals.org/content/early/2016/07/09/hmg.ddw206.abstract

知的障害の原因遺伝子としてSIN3Aが同定

Nature Geneticsより。知的障害自閉症に関係する遺伝子は多数報告されていますが、新しい遺伝子変異としてSIN3A (switch-insensitive 3 family member A) が同定されました。SIN3Aは転写抑制因子として機能し、Rett症候群の原因遺伝子MeCP2と結合することが知られています。マウスにおいて、Sin3aの遺伝子発現を抑制した結果、大脳皮質における神経発達が異常になることがわかりました。このことから、SIN3Aが機能不全 (正確にはハプロ不全) となることで、大脳皮質の発達異常が起こり、その結果知的障害を発症することが示唆されます。

Haploinsufficiency of MeCP2-interacting transcriptional co-repressor SIN3A causes mild intellectual disability by affecting the development of cortical integrity

http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/full/ng.3619.html

抗精神病薬によって副作用のカタレプシーが出る分子メカニズム

Neuronより。抗精神病薬ハロペリドールなどはドーパミン受容体D2Rを阻害することで薬効を発揮しますが、副作用としてカタレプシー (不自然な姿勢を長時間保つ) など錐体外路症状が現れることが知られています。D2Rは脳内の様々な細胞に発現していますが、遺伝学的手法で、線条体アセチルコリン作動性のインターニューロンだけでD2Rを欠損させると、ハロペリドールなどによるカタレプシーが減弱することがわかりました。線条体アセチルコリン作動性インターニューロン上にはD2Rが発現しており、D2R阻害によるアセチルコリンを介した神経伝達がカタレプシー発現に重要なようです。

Parkinsonism Driven by Antipsychotics Originates from Dopaminergic Control of Striatal Cholinergic Interneurons

http://www.cell.com/neuron/abstract/S0896-6273(16)30267-7

多発性硬化症を対象としたS1P1,5受容体調節薬siponimod (BAF312) の臨床第2相試験結果

JAMA Neurologyより。Siponimodは、二次進行性多発性硬化症の患者を対象に現在臨床第3相試験中です。その前に行われた再発寛解多発性硬化症患者を対象に行われた臨床第2相試験結果が論文公表されました。評価期間は最大24か月 (2年) で、安全性以外に、薬効の指標として、年間の再発率、およびMRIの画像所見での病変数が測定されました。薬物の服用量は5段階に分かれて行われた結果、高用量側において年間再発率の低下、脳内病変数の低下が認められました。

Safety and Efficacy of Siponimod (BAF312) in Patients With Relapsing-Remitting Multiple Sclerosis Dose-Blinded, Randomized Extension of the Phase 2 BOLD Study

https://archneur.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2532101

脳内血管病変とアルツハイマー病の関係

Lancet Neurologyより。2つの大規模臨床試験で、生前に認知機能試験を行い、かつ死後に病理解析データが得られた1143名の患者から、アルツハイマー病と脳内血管病変の関係性を解析した結果が発表されました。脳内血管病変としては、動脈硬化巣 (大小血管それぞれ) が病理学的に解析されました。その結果、動脈硬化巣がアルツハイマー病と相関し、さらに認知機能のスコアの低下とも相関していることがわかりました。

Relation of cerebral vessel disease to Alzheimer's disease dementia and cognitive function in elderly people: a cross-sectional study

http://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(16)30029-1/abstract

前頭側頭型認知症の原因となるタンパク質progranulin量と相関する遺伝子prosaposin

Nature Communicationsより。前頭側頭型認知症の原因となる遺伝子はいくつか知られていますが、その一つにGRN遺伝子のハプロ不全があります。GRNはprogranulinをコードし、そのprogranulinがハプロ不全で減少するため、前頭側頭型認知症が発症します。血漿中のprogranulin量と相関する遺伝子座を探索した結果、prosaposin (PSAP) の遺伝子座が新しく同定されました。

Prosaposin is a regulator of progranulin levels and oligomerization

http://www.nature.com/ncomms/2016/160630/ncomms11992/full/ncomms11992.html

 

多発性硬化症患者の腸内環境の変化

Scientific Reportsより。多発性硬化症患者31名の腸内細菌と、健常者36名の腸内細菌を解析した結果、多発性硬化症患者ではPsuedomonas, Mycoplana, Haemophilus, Blautia,およびDorea属の細菌が多い一方で、健常者ではParabacteroides, AdlercreutziaおよびPrevotella属の細菌が多いようです。多発性硬化症に特有かどうか、つまり他の自己免疫疾患や中枢疾患ではどうか、腸内細菌の変化が原因なのか、結果なのか、今後の研究が期待されます。

Multiple sclerosis patients have a distinct gut microbiota compared to healthy controls

http://www.nature.com/articles/srep28484

RNAのメチル化と記憶の情報処理機構

Journal of Neuroscienceより。マウスの研究で、N6-methyladenosine (m6A) というRNAのメチル化が記憶の情報処理過程に重要な役割を果たしていることがわかりました。学習行動試験の後で、前頭前皮質においてm6Aが増加していることが見いだされ、さらに前頭前皮質でm6Aの脱メチル化酵素RNA demethylase FTOをノックダウンし、m6Aが減らないようにすると、恐怖学習課題における記憶の統合が増強されることがわかりました。RNAのメチル化はmRNAの安定性に影響を与えることが知られており、DNAのメチル化だけでなくRNAのメチル化も脳において重要な生理学的役割を担っているようです。

Experience-Dependent Accumulation of N6-Methyladenosine in the Prefrontal Cortex Is Associated with Memory Processes in Mice

http://www.jneurosci.org/content/36/25/6771

 

ヒトニューロンでの単一細胞RNAシーケンスで明らかになったニューロンのサブタイプ

Scienceより。ヒトの死後脳のニューロンにおいて、single-nuclei sequencingでの単一細胞レベルでのRNAシーケンスによる遺伝子発現解析の結果、ニューロンが16種類のサブタイプに分類できることが報告されました。

Neuronal subtypes and diversity revealed by single-nucleus RNA sequencing of the human brain

http://science.sciencemag.org/content/352/6293/1586

去年には、別のグループから、やはりヒトにおいて、グリアを含む脳細胞の単一細胞レベルのRNAシーケンスの結果もPNASに報告されています。

A survey of human brain transcriptome diversity at the single cell level

http://www.pnas.org/content/112/23/7285

 

ウエストナイル脳炎で記憶障害が起こる分子メカニズム

Natureより。蚊によって媒介される感染症、ウエストナイル熱はまれに脳炎を起こし、記憶障害が後遺症となって残ります。マウスのウエストナイルウイルス感染症モデルで、その分子メカニズムを解析した結果が報告されました。感染によって、補体分子C1QAの発現がミクログリアおよびニューロンで上昇し、その結果プレシナプスミクログリアが貪食していることがわかりました。さらに遺伝学的手法を使って、ミクログリアが減少するIL-34 KOマウスや、補体分子C3もしくはC3a受容体KOマウスでは、ウエストナイルウイルス感染によるプレシナプスの減少が抑制されることから、ミクログリアが補体を介して、プレシナプスを貪食するという、分子メカニズムも明らかとなりました。

A complement–microglial axis drives synapse loss during virus-induced memory impairment

http://www.nature.com/nature/journal/v534/n7608/abs/nature18283.html

α7ニコチン受容体アゴニストABT-126の統合失調症患者の認知機能に対する臨床試験

Neuropsychopharmacologyより。α7ニコチン受容体アゴニストABT-126の統合失調症患者の認知機能に対する作用を検証する臨床Ph2b試験。432名の統合失調症患者が参加し、80%にあたる患者が試験を最後まで完了しました。主要評価項目は認知機能スコアMATRICS Consensus Cognitive Battery (MCCB) neurocognitive composite score で、12週間の試験で統計学的に有意な作用は検出されませんでした。二次評価項目として、統合失調症患者の陰性症状に対する影響を調べたところ、改善する傾向が認められました。Abbvie社の開発品リストからはABT-126は既にはずれています。

The α7 Nicotinic Agonist ABT-126 in the Treatment of Cognitive Impairment Associated with Schizophrenia in Nonsmokers: Results from a Randomized Controlled Phase 2b Study

http://www.nature.com/npp/journal/vaop/naam/abs/npp2016101a.html